大阪地方裁判所 昭和39年(行ウ)63号 判決 1966年9月16日
原告 株式会社日和橋倉庫
被告 港税務署長 外一名
訴訟代理人 樋口哲夫 外三名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、原告が海運業ならびに沿岸荷役業を営む会社であること、原告が被告署長に対し、昭和三六年一二月二九日付で、昭和三五年一〇月一日から昭和三六年九月三〇日までの事業年度分法人税について欠損金額一、五二一、四五九円とする確定申告をしたのに対し、被告署長は、昭和三七年八月三一日付で、所得金額一三、五〇一、八四一円、法人税額五、二三二、三八〇円、重加算税額二、六一六、〇〇〇円とする更正決定をしたこと、原告は右更正決定を不服として、昭和三七年九月二八日、被告署長に対して再調査の請求をしたところ、被告署長は調査の結果、昭和三七年一〇月一八日付で再調査の請求棄却の決定をしたこと、原告は右決定を不服として昭和三七年一一月二日、被告局長に対して審査請求をなしたところ、被告局長は協議団の議決に基いて昭和三九年九月五日付で原処分を一部取消し、所得金額一三、二一一、八四一円、法人税額五、一一一、一九〇円、重加算税額二、五五五、〇〇〇円とする審査決定をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、しかして、原告は被告署長のなした右更正決定は違法であると主張するので判断する。原告の当該年度における所得金額は本件土地売買の譲渡益一四、七三三、三〇〇円(後記のごとくこの金額自体は当事者間に争いがない)を除くと、原告主張通りの申告の欠損金額一、五二一、四五九円であることは当事者間に争いがない。しかるに、被告らは、本件土地の譲渡益は原告に帰属するものであるから、右更正決定は適法であると主張するので、以下この点について判断する。すなわち、昭和三三年八月一日訴外南福崎土地株式会社が本件土地を代金一、一七八、二〇〇円と定めて原告に売渡したこと、(ただし真実の買主が原告かあるいは山田茂かは暫くおく)同年八月一二日づけで原告名義の所有権取得登記がなされていること、昭和三六年三月一日売主原告名義(ただし前同様真実の売主が原告か山田茂かは暫くおく)で本件土地を代金一六、二〇一、五〇〇円と定めて訴外大源株式会社に売渡され、その譲渡益が金一四、七三三、三〇〇円であつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。また<証拠省略>によると、本件土地につき、原告を債務者として(イ)昭和三三年一〇月二二日債権者福徳相互銀行のため追加根抵当権設定登記(債権極度額金二一〇万円)、(ロ)昭和三四年一月一九日債権者大阪府中小企業信用保証協会のため根抵当権設定登記(債権極度額金二四〇万円)(ハ)昭和三四年六月二日債権者三菱倉庫のため抵当権設定登記(ニ)昭和三五年二月一三日債権者株式会社武山回漕店のため抵当権設定登記(債権額金六〇〇万円)がなされている真実、ことに右(イ)、(ロ)、(ニ)の三つについては、いずれも抵当権設定と同時に、流抵当の特約の実質をもつ代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされている事実、さらに<証拠省略>によると、原告は、昭和三四、三五年度の本件土地の固定資産税を納付している事実を各認めることができる。右認定に反する証拠はない。
しかして、右争いなき事実および右認定事実に徴すると、これを別異に解すべき特段の事由なきかぎり、本件土地の訴外南福崎土地株式会社よりの買主および訴外大源株式会社への売主は原告と推認すべきであり、従つてまた前記譲渡益の帰属者は原告というべきこととなる。
(1) しかるに原告は、昭和三三年八月一日、訴外南福崎土地株式会社から本件土地を取得したのは訴外山田茂であつて原告でない旨主張し、
(イ) 本件土地購入代金は、右山田茂個人が支払つたものであり、それに充てるために同人の妻名義の、大津市上別保町六四八の一、山林二町を担保とし、更に支払を担保するために、金額一二〇万円、満期昭和三三年八月九日、支払場所大阪市信用金庫西支店、振出地大阪市、振出人大港倉庫株式会社および山田茂、振出日昭和三三年七月七日、受取人中沢商事とする約束手形一通を振出して、訴外中沢商事内豊田栄蔵より金一二〇万円を借入れたものであること。
(ロ) 本件土地購入に際し売買契約書の買主名義を原告としたのは、当時訴外近畿財務局長との訴訟に敗訴し、右近畿財務局長より債務(債務額一六〇〇万円)の強制執行をうける状態にあつたので、この差押を回避するためになしたものであり、原告としても会社名義にしておけば、会社の資金繰りの担保化に活用できるので、これを承認したものであること。
(ハ) 原告は昭和三二年四月一八日、資本金一〇〇万円で設立された会社であり、設立后わづか一年余りの本件土地購入時には一一七万余円に上る多額の代金を支払う能力はなかつたこと。また、売買当時の昭和三三年八月一日以降資産として「土地」は全く計上されていないこと。
(ニ) 本件土地の所有権者が山田茂個人に帰属する旨を、右山田と原告間において、和解調書をもつて確認していること。
(ホ) 本件土地の名義上の所有者である原告が立替え納付した固定資産税を、山田茂が原告に支払つていること。
(ヘ) 本件土地の売却に関し、右山田茂は譲渡所得の申告をしていること。
などを挙げている。
よつて、そのそれぞれについて検討するに、(イ)の点については、<証拠省略>によれば、本件土地購入代金借入代金借入れの担保として、昭和三三年七月七日に、大港倉庫株式会社および山田茂を共同振出人とする約束手形一通が振出されたが、本件土地売買契約が成立したのは同年八月一日であり、所有権移転登記がなされたのは同年八月一二日であること、右約束手形振出の直后である同年七月八日に、大阪市港区二条通三丁目二二、家屋番号同所二五番、倉庫、煉瓦造スレート葺平家建、建坪九〇坪の建物につき、右山田茂名義で所有権保存登記をしていること、本件土地購入代金借入れに際して、大津市上別保町六四八の一の山林二町を担保に供した事実のないこと、をいずれも認めることができ、右各事実を総合すると、訴外山田茂ないし大港倉庫株式会社が、訴外中沢商事内豊田栄蔵から本件土地購入代金を借入れたことは窺えるが、右金員は本件土地購入に充てたのではなく、むしろ、前記大阪市港区二条通三丁目二二所在の建物の購入代金に充てたものと考えられる。
(ロ)については、<証拠省略>によれば、訴外山田茂は、本件土地売買契約成立の約一ケ月前の昭和三三年七月八日に、前記の如く、大阪市港区二条通三丁目二二所在の建物に自己名義で所有権保存登記を了していることが認められ、右事実の存在から判断すると、近畿財務局長からの差押を回避する必要上、本件土地を原告名義にしたという証人山田茂の証言は措信しえず従つて、原告の右主張はにわかにこれを信ずることはできない。
また証人加土井貞の証言によれば、原告会社は、山田茂の個人会社の実質を有していることが認められるが、しかりとすれば、対外的には右山田個人の信用がモノを言い、無理に原告の会社名義にしなくとも、例えば物上保証の形で資金繰りの担保化の目的は容易に達せらるれのであるから、この点についての原告の主張も首肯しうるものではない。
(ハ)についてみるに、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲第一二号証によると、本件土地売買から僅か二ケ月后の昭和三三年九月三〇日現在の原告会社の資産は、一、三〇七万円余に達していることが認められるから、たとえ設立后一年余にしかすぎない資本金一〇〇万円の会社だからといつて原告に一一七万八千円余の本件土地購入代金の支払能力がないとは言えない。また、原告は原告会社の決算報告書に資産として「土地」が計上されていないから、本件土地は原告の所有に属するものではないと主張しているが、遺憾ながら納税義務者たる会社が全てその資産を正確に正規の帳簿に計上しているとはいえない実状から判断すれば、原告主張の右事実をもつて直ちに本件土地が原告の所有でないと断定するには躊躇せざるを得ない。
(ニ)、(ホ)の主張については、<証拠省略>によれば、訴外山田茂と原告間に前記原告主張のごとき和解が成立したことを認めることができるがその成立日時は昭和三七年九月一七日であること、また弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲第一七号証によれば、右山田が原告に固定資産税を支払つたのは、同年一二月二八日であること、つまり、いずれも本件更正決定のなされた昭和三七年八月三一日以后になされていることが認められ、右の事実と原告会社が右山田の個人会社的性格のものであることを併せ考えると、右和解調書の作成、固定資産税の支払いは、いずれも本件更正決定を排斥するために、訴外山田茂と原告会社とが馴れ合いの上で行つたものと考えられる余地が大きい。
(ヘ)については、証人山田茂の証言と原告代表者山田ミズエ本人尋問の結果によると、山田茂が譲渡所得の申告をしたのは昭和三八年、つまり本件更正決定のあとであるから、原告の右主張をもつて本件土地が原告の所有でなかつたとする決定的根拠とはなし得ない。(尤も証人山田茂は同人の右申告が昭和三八年まで遅れたのは、それ以前に提出した申告書を所轄税務署長が紛失したとか、あるいは同人の依頼した税理士が申告書の提出を遅滞したためであると供述するが、他にこれを認めるに足る証拠はなく、右供述は採用しない。)
右のごとく、本件土地譲渡益の帰属者は、訴外山田茂個人であつて、原告ではないとして、これを根拠づけるために原告の示した事由はいずれも、原告の右主張を認めるには十分ではない。よつて、本件土地譲渡益が原告に帰属するものと認定し、右認定に基いてなされた被告署長の更正決定は適法である。
三、更に、原告は被告局長のなした前記審査決定は違法であると主張し、被告らは、右審査決定に付記された理由にはなんら瑕疵がないから、右審査決定は適法であると主張するので、この点について判断する。法人税法(昭和三六年当時施行以下同じ)第三五条第五項が審査決定に理由の付記を要するとする趣旨は、原告主張の如く、審査決定の根拠を具体的に明らかにすることにより、審査決定の公正を保障し、無用の争訟を未然に防止しようとするものである。従つて、理由付記の程度も、原処分を正当として維持した判断の根拠を客観的に一般人をして一応理解せしめるに足るものを記載すべきである。しかし、その程度なるものは事案により必ずしも一様である必要はなく、更正通知書あるいは再調査決定通知書の記載の理由により更正の理由が明確なときは、これと併せて理解せしめ得れば足る。
本件審査決定についてみるに、被告局長が本件審査決定に付記した理由が「一、譲渡した土地について審査した結果、その所有者は法人と認められるので、譲渡益は法人に帰すべきものです。しかし、支払つた仲介手数料二九〇、〇〇〇円は当期の損金と認められるので原処分を一部取消します。二、法人所有資産の譲渡益を帳簿に記載せず、また、当該譲渡益を申告書にも計上していないことは、法人税法第四三条の二第一項に該当するので重加算税の賦課決定は相当です。しかし、所得金額の一部取消しにともない重加算税額も一部取消します。」であることについては当事者間に争いがない。しかして、原告の不服事由は、要するに「譲渡物件たる本件土地の所有者は訴外山田茂個人であり、原告でないから、本件譲渡益の帰属者は右山田茂である」という点にあると認められるから、前記の理由は原告の不服事由に対応するものであり、しかも「大阪市港区南福崎町三丁目一番地の四、宅地三二三坪八三、同所一番地の三二、宅地九六坪は登記面においても、又売買時の売買契約書も会社名であり、売買差額は法人税課税相当と認め再調査請求を棄却します。」旨の再調査決定の理由とを併せ読むときは、原処分を正当として維持した判断の根拠について客観的に一般人をして一応理解せしめるに足りるものと思料されるから、審査決定の理由として十分であり、なんら瑕疵はないと認められる。従つて、被告局長のなした本件審査決定は適法である。
四、よつて、原告の被告らに対する本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 福井厚士)